友達とごはんに行って、それなりに笑って、楽しかったはずなのに。帰り道、ふっとひとりぼっちのような感覚になる。
パートナーの前でさえ、なんとなく笑顔でいないといけない気がして、「今日しんどかった」の一言が出てこない。そもそも、何がつらいのかも自分でよくわからない。
職場でも家でも、頼られるのはいつも自分のほう。そんなあなたが愛着障害について調べていくうちに、「安全基地」という言葉に出会って、「私には、そういう場所があったかな」と手が止まったのではないでしょうか。
先にお伝えすると、弱音を吐けないのも、新しいことに踏み出せないのも、好きなことがわからないのも、失敗や弱さを包んで回復させてくれる場所=安全基地を持てなかったからかもしれません。そして安全基地は、大人になってからでも作り直せます。
この記事では、愛着障害でいう安全基地とは何か、安全基地がなかった大人に多い特徴、そして大人になってからの作り直し方を、カウンセリングの現場の様子も交えてお伝えします。
愛着障害でいう「安全基地」とは?
安全基地とは、ひとことで言うと「何かあったら戻ってこられる、心のよりどころ」のことです。
もともとは愛着の研究から生まれた言葉で、小さな子どもが親のそばを離れて遊びに行き、怖いことがあると戻ってきて、また遊びに出ていく。そのときの「戻る場所」を指しています。
転んで泣いたとき、駆け寄れば抱きしめてもらえる。そう信じられるから、子どもはまた外へ遊びに行けます。
でも、それは誰にでも当たり前にあったものではありません。むしろ、駆け寄って抱きしめてもらわなければ、大胆な冒険ができなくなってくるかもしれません。
「新しいことに一歩が出ない」「いつも慎重になりすぎる」。そんな自分に心当たりがある方は、ここにひとつの理由があるのかもしれません。
安全基地には、大きく分けて2つの働きがあります。
傷ついたときに戻って回復する場所
1つ目は、疲れたとき・傷ついたときに戻って、回復する場所としての働きです。
失敗しても、弱いところを見せても、責められない。「大丈夫だったね」と受け止めてもらえる。大人でいえば、職場で嫌なことがあっても、家や行きつけのお店、話を聞いてくれる友人のところで気持ちを立て直せる。そんな場所のことです。
外へ踏み出すための拠点
2つ目は、そこから外へ踏み出すための拠点としての働きです。
「最悪のときには戻れる」と思えるから、新しいことに挑戦したり、知らない人と関わったりできる。安全基地は、ただ守られるだけの場所ではなく、外の世界へ出ていく勇気をくれる場所でもあるのです。
依存との違い:やがて旅立って、距離が空いていく場所
ここで、よく誤解されるところがあります。安全基地は、依存の相手とは違います。
安全基地は、いざというときに頼れる場所です。最初は頻繁に頼っても、回復するにつれて外の世界で過ごす時間が増え、やがて旅立って、距離が空いていく。それが自然な形です。
反対に、離れると不安でたまらない、相手がいないと何も決められない、という関係は、安心をくれる基地というより、手放せない「しがみつき先」になっています。
戻るたびに少し元気になって、また外へ出ていける。その往復ができるかどうかが、安全基地と依存を分けるポイントです。
安全基地がなかった大人に多い特徴
子どもの頃に安全基地を十分に持てなかった人は、大人になってから、こんな形でしんどさが出てくることがあります。カウンセリングの現場でよくお聞きするものを挙げてみますね。
頼られる側にばかり回ってしまう
後輩の相談には1時間付き合えるし、家族の愚痴も聞ける。それなのに、自分が頼る側に回るのは、どうにも落ち着かない。
頼ったときに受け止めてもらえた経験が少ないと、「頼る」より「頼られる」ほうが安全に感じます。あなたがしっかり者でいるのは、性格というより、身につけてきた守り方なのです。しっかり者として頑張ってこられたのは、それだけ一人で踏ん張ってきた証でもあります。
パートナーにすら笑顔でいないといけない
いちばん近いはずのパートナーの前でも、機嫌よくしていないといけない気がする。弱音を吐いたら面倒に思われるかも、と先回りしてしまう。
カウンセリングでも、この「パートナーにすら」という相談はとても多いです。相手が冷たいわけではなくても、「弱さを見せても大丈夫だった」という経験が体に残っていないと、笑顔がいちばん安全な選択になってしまうのですよね。
何がつらいのか、自分でもわからない
しんどいのは確かなのに、何がつらいのかを言葉にできない。これもよくある声です。
つらさを打ち明けて受け止めてもらう経験が少ないと、自分の気持ちに名前をつける機会も少なくなります。わからないのは、あなたが鈍いからではありません。感じる前にフタをする習慣が、身を守るために育ってきただけなのです。
新しいことに踏み出せない・好きなことがわからない
相談の半分くらいは、実はこちらのタイプです。挑戦したいのに一歩が出ない。好きなことが見つからない。
先ほどの「外へ踏み出すための拠点」が足りていないと、失敗したときに戻る場所がないので、そもそも出ていけません。好きなことがわからないのも、「欲しい」と感じること自体にブレーキがかかっていることが多いのです。
友達といても孤独を感じる
友達と遊んでいても、どこか孤独。これは、軽いしんどさの方にもとても多い感覚です。
その場に合わせて、笑うところで笑い、うなずくところでうなずく。自分の気持ちで話しているというより、決まった反応を返しているだけのような感じがして、自分がどこにいるのかわからなくなる。人といても孤独なのは、その場に「ほんとうの自分」の居場所がないからかもしれません。
安全基地の4つの条件(岡田尊司『愛着障害』より)
では、安全基地になってくれる人や場所には、どんな条件があるのでしょうか。
精神科医の岡田尊司さんは、著書『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』の中で、安全基地の条件として次の4つを挙げています(光文社新書、p.262〜265)。
- 安全感の保証
- 感受性
- 応答性
- 安定性
私なりに日常の言葉にすると、「一緒にいて脅かされない」「こちらの気持ちに気づいてくれる」「求めたときに応えてくれる」「機嫌や態度がころころ変わらない」といったイメージです。
そしてカウンセリングの現場では、もう1つ、何でも話せることも大切だと感じています。うまく話せなくても、まとまっていなくても、途中で否定されずに最後まで聞いてもらえる。それだけで、人はずいぶん回復していくものです。
この条件を見て、「そんな人、周りにいない」と思われたかもしれませんね。大丈夫です。安全基地は、完璧な誰か1人である必要はありません。次の章で、大人になってからの作り直し方をお伝えします。
愛着障害の大人が安全基地を作り直す方法
子どもの頃の安全基地は、親など身近な大人が担うものでした。でも大人になった今は、人・場所・自分自身の中に、少しずつ作り直していけます。
欲しがれないのは、失敗しても大丈夫な場所がないから
安全基地を作り直すとき、いちばんの壁になるのが「欲しがってはいけない」という心のブレーキです。
カウンセリングでよくお聞きするのは、たとえばこんな場面です。
休みの日に、スーパー銭湯でリラックスしてみたいと思った。でもすぐに、「そんなことをしても、仕事のミスは取り返せないよ」という気持ちになる。
電車が好きで、遠くまで出かけようと思った。でも「そこに行ったところで、どうなるの」と考え始める。意味を探しているうちに時間が過ぎて、14時ごろには出かける気も失せてくる。目的地に着く頃にはお店が閉まり始めていることを想像して、焦りながらも面倒な感覚になる。
こうした例は、本当にたくさんあります。ここに表れているのは、失敗しても大丈夫という安心感がないこと、そして欲しがることに許可が出ていないことです。
やりたいことを思いついてすぐ、「意味がない」「お金がもったいない」と打ち消してしまう。その打ち消した瞬間にこそ、許可されたい自分がいるのです。あなたにも、思い当たる場面があるのではないでしょうか。
「欲しがってよい」の許可は、気持ちではなく行動で出す
ここで「よし、欲しがっていいと思おう」と、気持ちや意思で無理やり許可を出そうとしても、なかなかうまくいきません。ブレーキは、頭で考えるより先にかかってしまうからです。
だから、許可は行動で出してみてください。
- スーパー銭湯に行って、くつろげなくてもいい
- 14時からでも出かけてみて、お店が閉まっていてもいい
- 楽しめなかったら、「今日は楽しめなかったな」で終わっていい
楽しめなくていい。完璧でなくていい。「行ってみた」という行動そのものが、自分に「欲しがっていいよ」と伝える許可になります。
一瞬思いついたことのなかに、本心があり、安全基地をあなた自身に求めて冒険しようとする一歩です。
人:弱さを少しだけ見せられる相手を1人
人の安全基地は、最初から何でも話せる相手でなくてかまいません。ほんの少しだけ弱さを見せられる人を、1人思い浮かべてみてください。
「今日ちょっと疲れた」と言える同僚。用事がなくても連絡できる昔の友人。そういう小さな相手から、「弱さを見せても大丈夫だった」という経験を積んでいきます。
人以外:場所・趣味・仕事
人が怖いと感じる方は、無理に人から始めなくて大丈夫です。
岡田尊司さんは、別の著書『愛着障害の克服』(光文社新書)の中で、人との関係に距離を置きがちな人にとっては、仕事や趣味の世界が安全基地になることも多いと述べています(ゴールドオンラインに掲載された同書の抜粋)。
行きつけの喫茶店、好きな散歩道、没頭できる趣味。「ここに来ると、少しほっとする」と感じられる場所も、立派な安全基地です。
人と近づくほど離れたくなってしまう方は、恐れ回避型の愛着スタイルや回避型の愛着スタイルの記事も参考にしてみてください。
自分の中に安全基地を育てる
そして最後は、自分自身の中に安全基地を育てることです。
自分の中に安全基地がないと、外に安全基地を作ろうとしても、相手に求めすぎて苦しくなったり、逆に相手から寄りかかられすぎて疲れてしまったりしがちです。
自分の気持ちを否定せずに聞いてあげる。小さな「やりたい」を、行動で叶えてあげる。その積み重ねが、自分の中の安全基地になっていきます。
人を信じる土台そのものに自信がない方は、基本的信頼感を自分で育てる方法の記事もあわせて読んでみてください。
安心して話せる人がいないときにできること
「安心して話せる人がいない」。そう感じるのは、人を求める気持ちがちゃんとあるからこその、つらさですよね。
そんなときに、ひとりでできるワークを1つご紹介します。
準備するものは、自分が「かわいいな」と思えて、抱きしめやすいものです。ぬいぐるみやクッション、ペットでもかまいません。
- それをやさしく抱きしめます
- 抱きしめたまま、今日あったこと、しんどかったことを自分に話しかけます
- うまくまとまらなくても、最後まで話してみます
「アホらしい」と思われるかもしれません。でも、自分の言葉で自分に話しかけると、心の奥の、ずっと我慢してきた部分が「出てきてもいいんだ」と少しずつ安心していきます。
これは、誰かに共感的に話を聞いてもらえたときに気持ちが楽になるのと、同じ働きです。自分が自分の、最初の聞き手になる。それが、自分の中の安全基地づくりの入口になります。
まとめ
愛着障害でいう安全基地とは、傷ついたときに戻って回復でき、そこからまた外へ踏み出していける、心のよりどころのことです。
弱音を吐けない、何がつらいのかわからない、踏み出せない、好きなことがわからない、友達といても孤独。どれも、あなたの性格のせいではなく、失敗や弱さを包んでくれる場所を持てなかったことから来ているのかもしれません。
そして安全基地は、大人になってからでも、人・場所・自分の中に、少しずつ作り直していけます。まずは小さな「やりたい」を、楽しめなくてもいいので、行動で1つ叶えてみてください。
愛着障害そのものについて詳しく知りたい方は、こちらの記事でまとめています。
「とはいえ、ひとりで安全基地を作り直すのは心細い」と思われたかもしれません。
7日間の無料メールレッスンでは、セールスなしで、カウンセリングの現場でも使っているセルフワークをお届けしています。自分の中に安心できる場所を少しずつ育てていくための、具体的な手がかりになるはずです。
あなたが、弱さを見せても大丈夫だと思える場所に、少しずつ出会っていけますように。


コメントを残す